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執筆者の写真トマトソムリエ・ヒロシ

僕がトマト農家になったわけ2 【浪人編】

更新日:2024年12月18日



浪人編1 旅立ち


 そうして、彼女は先輩と復縁してしまったわけですが、夏休みになると僕にも春がやってました。

 なんと美術部の後輩の子から告白されて、人生初の恋人ができたのです。

 浮かれた僕は存分に青春を謳歌しました。見るものも会うものも全てが楽しくなってキャッキャウフフしていましたが、そのツケは後に支払うことになります。


 遠距離のためあまり恋人に会えない彼女も、そんな僕を鬱陶しそうにしていましたが、そんなことは全然気になりませんでした。

 そんな訳で最後の高校生活を存分にエンジョイしながら受験にのぞんだ僕は、受けた大学に全て落ち、晴れて浪人生となってしまったのでした。


 そして、同じく受験生になった後輩ちゃんからは「勉強に集中しないといけないから」と言ってフられてしまったのでした。

 急転直下、全てを失った僕は、暗澹たる気持ちで卒業式を迎え、こうして僕らの高校生活は幕を閉じました。


 「女にうつつを抜かしてるから、そんな事になるのよ。一緒に東京行くって私と約束してたのに。」


 彼女はぶすッとして非難の目で僕を居抜きながら、さらに死体蹴りしてきます。

 彼女の方はというと、危なげもなく志望校に合格していました。

  3月の暖かい日、彼女が東京に出発するのを僕は駅まで見送りに行っていました。家族とは島でお別れしてきたみたいで見送りは僕一人でした。(なぜなら皆、新生活に出発していく中何も用事がないのが僕くらいだからです。いや勉強しろよって話ですが。)


 通勤ラッシュが終わって人もまばらになった駅で、新幹線の改札までいろんな話をしながら彼女と歩きました。

 明るい未来の希望に溢れた彼女と違い、全くいい事のない自分。僕は始まる前から、これからの浪人生活に嫌気がさしてきていました。


「じゃあ、元気で、勉強頑張ってね!ふらふら女の尻追いかけてちゃダメよ!」


 彼女はさらに釘をさしてきましたが、僕はもう当分そんな気分にはなれそうにありません。


「君も体に気をつけてね。」


僕らは新幹線の改札の前で最後の別れの言葉を交わしました。


「じゃあね、東京で待ってるからね。石原君も来年は絶対に来るんだよ!」


 彼女はそう言って、最後にとびきりの笑顔をプレゼントしてくれたので、僕の暗い未来にも一筋の明かりが灯ったような気がしました。

 そうして彼女は「バイバイっ。」と手を振って、人混みの中に消えてしまったのでした。

 彼女の姿が見えなくなってしまうと、途端になんとも言えない不安感に包まれて、大海原に小舟で浮いてるような心もとない気持ちになってしまいました。


「大丈夫かな…」


と、つい一人呟いてしまいましたが、結果的にこれからの一年間の浪人生活はまったく大丈夫ではありませんでした。


つづく


次回、「ヤバい男」!?

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